『山女日記』

 

山女日記 (幻冬舎文庫)

山女日記 (幻冬舎文庫)

 

  久しぶりの湊かなえさん。今流行りの山ガール&山登りがテーマということで、ぜんぜん興味がない分野だから母に「おもしろかったよー」と手渡されなければ読まなかったと思う一冊。しかもなんだか読む気がしなくて、ずっと積んでいた一冊だった。

 

 でも、読んでよかった。知らないからこそ、初めて見る美しい風景を見ているようで、すごくおもしろかった。母はNHKのドラマで興味を持って読み始めたらしく、ドラマもすごくよかったらしい。ドラマ、再放送しないかな。これからは、ぜんぜん興味がない分野の本にも手を出してみるのもいいかもしれない。読書って、頁をめくるだけでいろんな世界に行けるんだなあ、と久々に思えた本だった。

 

 登山がテーマの短編集で読みやすいし、山の風景はきれいだし、山登りの描写もわくわくするし、さわやかで心地よい話ばかりなので、安心して人にもお勧めできる。いつもえぐい湊作品なのに! いつもえげつない湊作品なのに! ただ、この本から入った読者は他の本を読んですごくびっくりするんじゃないだろうか。もう少しこういう系統のお話も書いてもらえたらうれしいなあ、と思った。あのえぐさも好きだけど、疲れているときはきついからね。

 

 もちろん、さわやかなお話と言っても、いい人ばかり出てくるわけではなく、ちょっと嫌な人は出てくるし、特にろくでもない男性ばかりいた気がする。いい人も中にはいたんだけど、いや、本当、たった一言で表す嫌な男の描写がすばらしくうまいなあ。嫌な女性の描写ももちろん、すばらしいのだが。

 

 運動が大嫌いなので、山に登ろうと思ったこともない私すらもちょっと登ってみたくなるほどに登山の描写がよかった。山ガールらしく、かわいいグッズをそろえたり、いろいろ工夫したおいしいおやつを休憩で食べたり、そういうのも楽しかった。

 

 お気に入りは「火打山」。バブリーな女性が婚活イベントで出会った神崎さんと山に登る話がよかった。トンボ玉と風景の描写がきれいだった。

 

 こんな風にどこか他の場所に連れて行ってくれるような本が読みたい。旅行記じゃなくて、小説がいいんだけど、見つけるのが難しいので地道に探していこうと思う。