『私のマトカ』

 

わたしのマトカ (幻冬舎文庫)

わたしのマトカ (幻冬舎文庫)

 

  『かもめ食堂』を見てから、原作が読みたくなってAmazonでいつもの通りうろうろしていたところ(心情的な意味で)、関連書籍に出てきたのが片桐はいりさんのエッセイだった。

 片桐はいりさんは昔から好きな女優さんだ。ドラマに出ていると、「あ、片桐さんが出ているならきっとおもしろいドラマだろうな」と思わせてくれるような女優さんである。味のある演技も好きだし、笑顔があったかくていい人なんだろうなあ、と思っていたら、エッセイでも本当に良い人だった。

 

 本だけに限らないが私には文章の好みは結構あって、好きな文章とそうではない文章、好きでも嫌いでもない文章にきっちり分かれている。たとえ、ストーリーがどんなにおもしろそうでも好みではない文章だと途中で止まってしまうのだ。

 

 だから、新しい作家さんの本を読むときは楽しみなような怖いような複雑な気分になるのだが、片桐さんの場合、読み始めてすぐに「大好きな文章だ!」と思ってうれしくなった。温かな人柄がにじみ出ている文章というのもあるが、簡潔でわかりやすいし、表現が美しいのである。特に自然の描写ははっとするほどきれいで、美しい風景を見たときのように「うわあ、きれいだなあ」と思った。

 

 今回のエッセイは「かもめ食堂」の映画の撮影中と撮影が終わった後のフィンランドの旅行記なのだが、フィンランドの描写もとても楽しいし、そこでめいっぱい楽しまれた片桐さんの姿もすごく楽しかった。旅だけではなくて、普段から人生を楽しんでいる方なんだなあ、と思う。

 

 文章がとにかくすばらしいので、さぞやいままでもたくさん書かれていたんだろうなあ、と思っていたのだが、文章なんて卒論から書いていない、とあって驚いた。ただ、お友達にはよくメールをしている、とあったから、メール自体がこのエッセイみたいなんだろうなあ、と思った。

 

 「かもめ食堂」を見終わった後に読むと楽しさ倍増だった。また映画が見たくなるし、いつかフィンランドに行ってみたい。市場を歩いてみたいし、シナモンロールを食べながらコーヒーが飲みたいなあ。