『八番街の探偵貴族 はじまりは、舞踏会。』

 

 

 『八番街の探偵貴族 はじまりは、舞踏会。』(青木祐子

 元メイドのマイアの新しい仕事は探偵事務所の助手だった。今回の仕事は探偵事務所の所長レヴィン・クレセントと共に貴婦人に変装して、ある舞踏会に行くことだったが――というお話。

  口当たりが良いのにえぐい話を書かせたら天下一品と定評がある(私の中で)青木祐子さんの新シリーズ。今回もすばらしく読みやすいのにすばらしく苦い後味 でとてもおもしろかったです。新シリーズのようですが、2014年に出たお話で続きも出ていないから続刊は難しいのかもしれません。私はかなり好きな話で すが、深く考えるとかーなりえぐいお話なので、コバルト向きではないのかなー。

 読書中は10代の乙女な感性を思い出して読みたいと思い つつ、やっぱり自分の重ねた年からは逃れられないような気になってきました。たとえば『赤毛のアン』はマリラ視点で読んでしまうし、昔は「ミス・ラヴェン ダーみたいなかわいいご婦人になりたいわ」とか思っていましたが今読むと「いや、あの年で架空のお客様ごっこはやばい」と思うようになってしまって、い やー、本当、なんか、年を取るのって切ないなって。


 以下はネタバレ感想。

 

 気丈で度胸もあって頭も良いヒロインマイア。ただ一つの欠点は男を見る目のなさだった!

  と思わずあおり文句を書きたくなってしまったが、いや、本当、なんでこんなに頭の良い、いい子がろくでもない男に引っかかっとるんだ! 田舎から出てきた ばかりで世間知らずなのかもしれないけれど! 勤め先の女主人に気に入られるほどの優秀な客室メイドだったのに、なんで、その家のぼんくら息子に言い寄ら れて、ほいほいついていって、指輪までもらっとるんだ!

 あげく、馬鹿息子アランに婚約者ができたため、マイアに言い寄っていた事実さえ なかったことにされ、もらった指輪は窃盗の疑いがかけられて、濡れ衣を着せられたままメイドを首になり、紹介状もなく放り出されたのだから、これ、相当恨 んでもいいことだと思うよー! 私なら恨むよー! 勤め先のお屋敷の奥様はいい人だったし、かばってくれた、みたいな描写があったけれど、本当に良い人 だったら紹介状を書くか、せめて、まとまったお金くらい渡したと思う。

 まあ、勤め先の名家の息子がメイドを本気で相手にするわけがない のに、うっかりほだされて、デートしたのはうかつだったかもしれない。どうしても断り切れなくても、奥様に気に入られているんだからさりげなく助けてもら うことはできただろう。たぶん、拒絶しきれなかったのは、マイアも一回くらいならデートしてみてもいいかな、と思ってしまうくらいには好きだったのだと思 う。

 でも、マイアも指輪をもらうべきではなかったし、もらったとしても誰にも見られないように気をつけるべきだったけれど、そんなことまで考えられないだろうからなあ。

 いや、でも、このマイアちゃんはお人よしみたいだから、なんかまた、どうしようもない頼りない男に引っかかりそうだなー。レヴィンは大丈夫なのか。レヴィンは。

  一作目の話はかなりえぐい話で驚いた。こういうどろどろしているのにさらっと読める話は本当に青木さんならではだと思う。マイアが頼まれて出席した舞踏会 で命じられた仕事は依頼人の初恋の青年に会って、依頼人の振りをするということ。オチはかなりえげつなかった。二作目はマイアの元の勤め先で起こったトラ ブルを解決するというもの。過去の決別ができてよかったけれど、もしシリーズが続いたらまたアランが出てきそうだな、と思った。レヴィンを見て、とことん コンプレックスを刺激されて苦悩すればいいさ。

 そういえば、アランはまたあの呪われた指輪をマイアに郵送で送ったわけだが、マイアはどうしたんだろう。また郵送で送り返せばいいよ。