『無菌病棟より愛をこめて』

 

 

無菌病棟より愛をこめて (文春文庫)

無菌病棟より愛をこめて (文春文庫)

 

  学生時代日常ミステリにはまっていて、よく読んでいた。最初にはまったのが北村薫。ミステリの中にもこんなジャンルがあるんだな、人が死なないミステリもいいな、と思って、次に手を伸ばしたのが『ななつのこ』というかわいいタイトルときれいな表紙が気になった加納朋子だった。内容もタイトルのままにかわいらしく、さわやかなミステリで楽しく読めた。それからも何作か読んだが、最近読んでいないな、と思っていたら、まさか、白血病になって闘病されていたとは思ってもみなかった。

 

 闘病記は初めて読むので、身構えながら読んだ。思わぬ体調不良に襲われ、検査の結果白血病と診断され、そこから地獄のような闘病生活が始まる。ただ、過酷な生活なはずなのに、ご本人の温かでユーモラスなお人柄が文章にあふれていて、どこかのんびりとしていて、それでも胸の詰まるような日記だった。自分には関係ない、遠い世界のようなことに思えていた恐ろしいことが自分自身に降りかかったときに、決して絶望することなく、あくまで前向きに、自分のできる限りのことを精一杯して、周りの人に感謝しながら生きるって、なかなかできないよなあ。私自身は幸いにして今は健康ではあるが、こんな風に、生きられているだろうか。(いや、生きられていない)

 

 病院の食事が意外においしかったり、差し入れの漫画を読んだり、ワンセグでサッカーやアニメを見たり、お菓子を食べたり、時には売店でお買い物をしたり、ちょっとした楽しみを探しながらも、だんだんと症状は重くなっていく。それでも、この日記にほとんど弱音を吐くような言葉は出てこない。食事や身の回りの整理、うがい手洗い、体操など自分のできる限りのことを行いながら、治療に前向きに取り組んでいる。

 

 特に体調不良のときは「食べる」ということはとてもつらいことだと思うけれど、体のために少しでも自分が食べたいと思うもの、おいしいと思うものを探して、どれだけつらくても口に運ぶ姿が印象に残った。加納さんの小説はやけに出てくる食べ物がおいしそうだなあ、と思っていたけれど、これもご本人が食べることが大好きで、大切なことだと捉えられているからなんだろうなあ。

 

 淡々と書かれていても、どれだけ痛みを伴っていたか、苦しかったか。無事に骨髄移植がされて、退院できても、全快するわけではない。これからもお元気でいてくださることを願っている。

 

 フィクションの作品って、必ずしも人柄が現れるものではないと思っていたけれど(だって、恐ろしい話を書く作家さんが恐ろしい人だというわけではないと思うし)、加納さんは本当に書かれる作品そのもののような優しい、ほんわかしながらも、凛とした方なんだなあ、と思う。