『子守唄』

 

子守唄 (創元推理文庫)

子守唄 (創元推理文庫)

 

 

 『子守唄』カーリン・イェルハルドセン

 ショーべリ警視シリーズ三部作ラスト。母親と二人の幼い子どもが無残にも殺された。失踪した刑事は事件に関わっているのか。ショーべリ警視の過去とペトラ刑事の事件はどう解決するのか。衝撃のラスト一作。

 この作者さんの子どもの書き方がとてもかわいくて、体温が感じられるような暖かみがあるので、実際に子どもを育てたお母さんが書かれているのかな、と思います。なのでなおさら、こう、悲惨な事件が悲惨に感じられます。

 北欧の冬の雰囲気そのままに重苦しい、えぐいお話でした。いや、すごくおもしろかった! だからこそ、えぐい!

  重苦しく、えぐい展開にもかかわらず、後味が良く、希望が持てる終わり方をするミステリもありますが(ミネット・ウォルターズとか、キャロル・オコンネル とか)、カーリン・イェルハルドセンはえぐいまま終わるので注意が必要です。でも、お話としてはおもしろいから続編が出たら買ってしまうだろうなあ。

  一応、すべての事件が解決されているようですが、肝心のペトラ刑事事件は解決されていません。犯人わかっても、あの終わり方はひどい! 訳者さんのあとが きがおもしろかったです。あとがきや解説は結構読み飛ばす方ですが、この訳者さんのあとがきは作品に愛があってとても好きです。

 以下はネタバレ感想。

 

 

 いろいろ叫びたいことはあるが、まずはこれからだろう。エイナール!!!! エイナール刑事!!!! まさかあなたが死ぬとは思わなかったよ!!!!

  確かにエイナール刑事にとっては、死ぬことこそが救いだったんだろうし、彼にとってはようやく死ぬことを許されたという感じなのだろうけれど、実際に彼は 罪を犯したわけではなく、ただ不運な事故に巻き込まれただけだったのに、ここまで自分を追いつめる必要があったのだろうか、と思う。ああ、でも、いろんな 罪悪感を背負って生き続けるよりも、もうおしまいにしたかったんだろうか。奥さんも戻ってこないしなあ。でも、ここまで人としての尊厳を踏みつけにされ て、ぼろぼろにされることこそが彼にとっての救いだったことが切なすぎる。

 今回の犯人はよくわからなかった。動機も理解しがたいし、何 がしたかったのかもよくわからない。巻き込まれそうになった子どもたちが心配だったけれど、すぐに解放されてよかった。事件捜査の関係でバルブロの名前が 出てきたことがうれしかった。バルブロさん、あなたの勇姿は忘れないよ!

 それでもってショーべり警視の不可思議な夢も解決したけど さー。あれはなー。結局一方的に救いにされたマギットって何だったの!? 裏切られたオーサの立場は!? まあ、マギットにも旦那さんがいるわけだからダ ブル不倫になるわけだけど、一線越えする必要があったわけ!? なんかもう悩み聞いてもらって、背徳感に悩まされるくらいにしとけばよかったじゃないか!  若人ならまだしも、いい大人がさー。

 あとはペトラ刑事の事件。ペトラ事件、ぜんっぜん解決してないじゃないかああああああ!!! ペ トラが、どんどんあさってな方向に行っているな、と思ったけれど、まさかここまでひどい展開になるとは思ってもみなかった。私の予想としては、ペトラがハ マドを疑った誤解が解けて、二人で真犯人を見つけ出し、良い雰囲気になる(もしかしたら恋人になるのかなっ)だったけれど、いやー、もうー、この作者さん 容赦ない。よりによって、ペトラをこれ以上ないひどい方法で貶めた相手とペトラが合意の関係になるって考える限りの最悪の展開だと思う。しかも、これ、史 上最低最悪な事件の犯人が警察の上層部にいることになるんだけれど、いくら何でも、これ放置したらまずいだろう。ペトラ自身、ハマドを疑うだけ疑って追求 せずに無視する、というどうしようもない解決法を取ったせいで、ここまでこじれてしまったんだし、これは、ちゃんと解決してくれるんだろうか。いや、でも さー。ペトラ前作で、マルムベリに妙な理由をつけたあげく解雇されそうになってたじゃんー。何があって、こんなことになったのさー。まあ、でもいくらハマドが隠しても真実はいつかわかるから、そのときにペトラが立ち直れるのかとても心配である。

 あと、ハマドがイケメンすぎた。少しでも疑ってごめんなさい、ハマド。

 それから、訳者さんあとがきの人物評がおもしろすぎた。私も心底同意見だ。私も見そこなったよショーべり警視! 

 三部作と言いながら、まだぜんぜん終わっていないので、続編に期待したいところである。