『小袖日記』

『小袖日記』 (柴田よしき)

 

小袖日記 (文春文庫)

小袖日記 (文春文庫)

 

 


 不倫相手に振られたあたしは雷に打たれて、なぜか平安時代(らしきところ)にタイムスリップしてしまっ た。しかも、どうやら『源氏物語』の作者たる香子さまつきの女房小袖と中身が入れ替わってしまったらしい。元の時代に戻れるまで、あたしは小袖として香子 さまの下で働くことになったのだが、『源氏物語』のストーリー制作にも関わることにもなってしまって!? というお話。

 さて、感想を書 こうと思ってカテゴリを見たときに、どのカテゴリ(ミステリかロマンス)に入れようかわからなくなったので急遽ただの「小説」というカテゴリを作りまし た。この小説は、どのジャンルなんだろう。ロマンスはないけれど、タイムスリップだからSFでしょうか。ミステリ要素もあるからミステリになるのかな。

 初柴田よしきさんでしたがサクサクと読みやすい文章で一気に読めました。『源氏物語』の解釈がおもしろかったです。


 以下はネタバレ感想。

 

 タイムスリップしたときは戸惑ったものの、わりとあっさり順応した小袖が平安時代を満喫しているのがよかった。甘いものを食べたり、かき氷を楽しんだり、アイスクリームを作ったりするところが楽しかった。

  香子さまをはじめとして女性たちはそれはもう凛として魅力的に描かれているのだけれど、殿方がど外道ばかりなのが残念だった。唯一素敵だと思ったのは明石 の君が思いを寄せたあの方だけかな。(物語には直接出てこないから想像するしかないけれど)まあ、『源氏物語』の光源氏自体が外道なことばかりしているか ら仕方ないのかもしれないけれど、外道なばかりじゃなくて、外道だけれど素敵! 外道だけれど、抗いがたい魅力があるわ! という感じの描かれ方もされた らよかったのにな、と思う。でないと姫君方が報われなさすぎる。

 せっかくおもしろい物語なのだから、「男ってひどいでしょう!?」とい う考え方をガンガン押しだすよりも、もっと世界に浸れるような物語として読ませてくれたらよかったのになー。私も『源氏物語』はまともに読んでないけれ ど、明石の君の解釈はちょっと意地悪すぎないかと思ってしまった。明石の君は紫の上が唯一ライバルとして認めている女性なのよっ! 流されるだけではなく て、芯が強いからこそ都まで子どもを連れてきて、子どもを紫の上に預けたのだから!

 小袖が帰れるかどうかの決着も含めてきれいにまとまった良い終わり方だった。