『殺人は容易だ』

 『殺人は容易だ』(アガサ・クリスティ

 

殺人は容易だ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

殺人は容易だ (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

 


 元警官のルークは汽車の中で老婦人からとんでもないことを聞かされる。小さな村で何度も殺人 が起こっているというのだ。ロンドンの警視庁に訴えに行くというのを聞き流していたルークだったが、老婦人が交通事故で死亡したということを知り、単身調 査に赴くが――というお話。

 ノンシリーズものに見せて、実はバトル警視シリーズ。でも最後にちょこっと出てくるだけ。(ワンポイントバ トル警視)この本、未読だと思っていたんですが、たぶん、学生時代に読んだことがある一冊でした。でも、ストーリーも犯人もきれいさっぱり忘れていたので 問題ありません。記憶力が低下しているのは悲しいですが、また面白く読めるという利点もあります。

 クリスティは久々に読んだのですが、 実にクリスティらしい一冊で楽しく読めました。この本を読んだきっかけはミス・マープルのドラマだったのですが、ドラマ版はあまりにもえげつない話だった ので「ひどい話だった」とつぶやいたところ、「原作はぜんぜん違いますよ」と親切に教えていただいて、それで興味を持ったからです。見事にぜんぜん違いま した。原作の動機の方が狂っていて好きです。

 以下はネタバレ感想。

 

 ミステリにしろ、サスペンスにしろ、殺人の動機で多いのが女性が乱暴されたというものなのだが、私はこれがどうにも苦手で嫌な気分になってしまう。まあ、 ミステリを読んでるから仕方ないか、とは思うんだけれど、それが唯一ないのがクリスティだったのに、ドラマ版では思いきりそれがきっかけになっていたので (しかも実の弟に乱暴されるというえげつなさ)、「私の知ってるクリスティじゃない!」と思っていたら、本当にぜんぜん違っていたよ! 原作はまったく違 う! 改変しすぎ! っていうか、ここまで改変するのなら、ミス・マープルものでオリジナル作ればいいじゃん、と思ってしまった。えげつない動機によるセ ンセーショナルさを狙ったのかなー。でも、クリスティの犯人の魅力は一見まともに見える人が実は狂っている、というものだから、その「まさかこの人 が!?」というのを原作通りに作ってほしかったなあ、と思う。
 
 今回の原作の犯人はルークと一緒にきれいに騙されたので、「まさかこの 人が!?」という感じでおもしろかった。ただ、最後、犯人の血筋が狂いやすいという設定はいらんかったなあ、と思う。(クリスティあるある)あと、ホイッ ト・フィールド卿のキャラが良い。お金目当てのおだてのうまい秘書がまた見つかるといいね。ロマンスも適度でよかった。